結論から申し上げますと、現時点および近い将来において、日本の半導体関連製品(特に素材と特定の製造装置)なしで、中国が高性能半導体を「量産」することは極めて困難(事実上不可能)です。
中国は「レガシー半導体(古い世代のチップ)」の自給自足は進めていますが、スマートフォンやAIに使われるような「高性能(最先端)半導体」においては、日本が持つ「チョークポイント(急所)」を回避できていないためです。
主な理由は以下の3点です。
1. 日本が独占する「絶対的な素材」の壁
半導体製造には数百種類の工程がありますが、その中で日本企業が世界シェアの70〜90%以上を握る不可欠な化学材料が存在します。これらが供給されないと、最先端の工場でも稼働が停止します。
- フォトレジスト(感光材): 回路を焼き付けるために必須の液体。
- 日本シェア:約90%(JSR、東京応化工業、信越化学など)
- 特に最先端の「EUV」や「ArF」用レジストは日本企業の独壇場です。中国製への代替は品質と歩留まり(良品率)の面でまだ実用レベルに至っていません。
- シリコンウェハ: 半導体の土台となる円盤。
- 日本シェア:約60%(信越化学、SUMCO)
- 高純度で欠陥のないウェハの量産技術において、日本は圧倒的です。
2. 「塗布・現像装置」の独占
オランダのASML社が作る「露光装置(数百億円する機械)」が有名ですが、その露光装置とセットで必ず使わなければならない装置(コーター・デベロッパ)においても日本が支配的です。
- コーター・デベロッパ(塗布現像装置): ウェハに薬液を塗り、現像する装置。
- 東京エレクトロンのシェア:世界約90%(EUV用はほぼ100%)
- ASMLの露光機を手に入れても、東京エレクトロンのこの装置が隣になければ、最先端プロセスは機能しません。
3. 中国の現在の実力と限界
最近、中国(HuaweiやSMIC)が7nm(ナノメートル)プロセスの半導体製造に成功したというニュースがありましたが、これには「からくり」があります。
- 在庫と流用の限界: 規制前に購入した装置(オランダや日本などの製)や、在庫の素材を駆使して製造していると見られています。
- コストと歩留まり: 最適な最新装置や素材を使えないため、無理やり古い装置を多重露光(マルチパターニング)で使っているとされ、生産効率が悪く、コストが非常に高いと言われています。「作れる」ことと「安価に大量生産できる(ビジネスになる)」ことは別問題です。
まとめ:今後の見通し
| 分野 | 日本なしでの中国の製造可能性 | 状況 |
| レガシー半導体 (家電・車載など) | 可能 | 中国国内メーカー(NauraやAMECなど)の装置で代替が進んでおり、自給体制を整えつつあります。 |
| 高性能半導体 (スマホ・AI・PC) | 不可能 (量産レベル) | フォトレジストと塗布現像装置の代替が最大の壁です。これらを日本以外(または自国)で調達する目処は立っていません。 |
結論: 日本が素材と装置の供給を完全にストップした場合、中国の最先端半導体工場は、在庫が尽き次第、稼働できなくなります。これが現在、日米蘭が連携して輸出規制を行っている背景にある「日本の強み」です。
